最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)2060号 判決 1952年3月25日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人栗原茂弁護人花輪長治の上告趣意は、後に添えた書面記載のとおりである。
同第一点について。
憲法三七条二項の法意は、裁判所が必要と認めて尋問を許可した証人について、被告人に直接尋問する機会を与えなければならないという意味のものであって、裁判所が必要と認めないものまでも、これを証人として採用し被告人に反対尋問の機会を与えなければならない趣旨のものではないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二三年(れ)第八八号同二三年六月二三日判決、集二巻七号七三四頁、昭和二二年(れ)第二五三号同二三年七月一四日判決、集二巻八号八五六頁)とするところであるから論旨は採用できない。
同第二点について。
論旨は刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
同第三点について。
第一審公判調書を委しく調べて見ると、所論証人につき裁判所が被告人に反対尋問の機会を与えなかったと認むべき形跡は全然認められないばかりでなく、特に証人新井卯平と同一公判期日に取調べられた証人江袋和次郎については、被告人の弁護人は、詳細に反対尋問をしているのであるから、第一審の証拠調手続に所論の如き法令違背があるとはいえない。そして刑訴五二条は、調書に記載あるもののみについて反証を許さない趣旨であって、調書に記載なきものについては、ただそれだけで手続がなされなかったということはできない。
所論憲法違反の主張は前提たる事実を欠くから理由がない(昭和二四年(つ)第九三号同二五年三月六日大法廷決定、集四巻三号三〇八頁参照)その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
よって刑訴四〇八条により全裁判官一致の意見をもって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)